裁判所から競売開始決定通知が届いたとしても、債権者の意向次第では競売を取り下げることが可能です。
ただし取り下げるためには、タイムリミットまでに任意売却を終えなければなりません。
タイムリミットを過ぎれば競売が始まり、家の立ち退きに向けて粛々と手続きが進みます。
ここでは、競売や任意売却のタイムリミットについて詳しく解説します。
競売開札日の前日までなら競売を取り下げられる
結論から言うと、実際に競売が行われるまでの間に任意売却を完了させてしまえば、競売を取り下げることができます。
債権者が裁判所に競売の申立てをすると、裁判所はその内容を審議した上で、債務者に対して競売開始決定通知を送付します。
ケースにもよりますが、この通知が届いてから約6か月後には実際に競売が行われ、売主は強制的に家を退去させられます。
競売開札日(競売が行われる当日)までに任意売却が「完了」していれば、債権者からの競売取り下げの申請により、競売は中止されます。
ただし、任意売却の「完了」とは売買契約のみを指すのではなく、買主からの代金の支払いや実際の物件の引き渡しも含みます。
手続き上の不備が生じるリスクも想定し、遅くとも競売開札日の前日か前々日までには競売の取り下げができるよう段取りを組んでおくべきでしょう。
いつからいつまでなら任意売却ができるのか?
任意売却が完了すれば競売を取り下げることができますが、任意売却の活動そのものは、競売開始決定通知よりも前にスタートさせることができます。
債権者が競売を申立てをする前に買主が見つかれば、裁判所から競売開始決定通知が届くこともありません。
ただし、任意売却はいつから始めても良いわけではない点にご注意ください。
任意売却の「相談」だけならばいつから始めても構いませんが、任意売却の「活動」自体は、特定のスタートラインから始めるのが通例です。
任意売却ができるのは代位弁済通知が届いた日から
任意売却の「活動」を始められるタイミングは、通常、保証会社等から代位弁済通知が届いた時点となります。
代位弁済通知が届く前から任意売却を始めようとしても、金融機関(銀行など)がそれを認めることはないでしょう。
なぜならば、たとえ債務者が住宅ローンを返済できなくなったとしても、金融機関は保証会社等に請求することにより、残債を一括で返済してもらうことができるからです。
債務者に代位弁済通知が届く前に、金融機関が債務者に対し、保証会社からの一括返済よりも不利になると思われる任意売却を認める理由がないということです。
一方で残債を肩代わりした保証会社においては、競売よりも高い金額を回収できる可能性があるという理由で、任意売却の相談に応じる可能性があります。
以上の理由により、保証会社が金融機関に一括返済をしたタイミング、すなわち保証会社から代位弁済通知が届いたタイミングから任意売却を始められると考えて良いでしょう。
競売開札日の前日までなら任意売却ができる
上記の競売の説明からも分かる通り、任意売却ができるタイムリミットは、遅くとも競売が行われる前日までと考えましょう。
売買契約の締結、物件の引き渡し、代金の受け渡し、債務者による競売申立ての取り下げといった手続きを競売の前日までには終えておきます。
住宅ローンの滞納から競売開札日が確定するまでの流れ
任意売却を検討する材料として、以下では住宅ローンの滞納から競売が行われるまでの流れを時系列で確認してみます。
なお、以下でご紹介している滞納からの期間は、あくまでも目安となります。
実際の期間はケースによって異なることをご了承ください。
【滞納から約1~5か月】金融機関から催告状・督促状が届く
住宅ローンの滞納が始まると、金融機関(銀行など)から催告状や督促状が届きます。
催告状や督促状には、速やかに入金して欲しいという旨とともに、滞納が続けば残債を一括返済してもらうことになるという旨も記載されています。
この段階で金融機関に赴き、返済計画の見直しなどを相談すべきでしょう。
【滞納から約3~6か月】金融機関から期限の利益喪失通知が届く
金融機関から「期限の利益」が喪失したという内容の通知が届きます。
「期限の利益」とは、ローンを分割で払う権利のこと。
この権利を喪失したという通知なので、事実上「ローンの残債を一括で払ってください」という催告となります。
【滞納から約4~7か月】保証会社等から代位弁済通知が届く
月々の住宅ローンの返済に困っている状況の中、一般的に、債務者は残債を一括返済できません。
そのため金融機関は、債務者に代わって保証会社に一括払いを請求することになります。
この請求に対して保証会社が一括返済することを、代位弁済と言います。
代位弁済が行われると、保証会社から債務者に代位弁済通知が届きます。
「あなたに代わって残債を一括返済したので、以後の債権者は金融機関ではなく当社になります」という内容の通知です。
【滞納から約5~8か月】裁判所から差押通知書が届く
保証会社に対して債務者からの返済が行われない場合には、保証会社から裁判所に競売の申立てが行われます。
競売の申立てが行われると、債務者に対して裁判所から差押通知書が届きます。
何を差し押さえたのかを知らせる通知です。
【滞納から約6~9か月】裁判所から競売開始決定通知が届く
裁判所が保証会社の競売申立てを受理すると、裁判所から債務者に対して競売開始決定通知が届きます。
競売することが決まったことを伝える通知で、具体的な入札日・開札日などを知らせる通知ではありません。
【滞納から約10か月】裁判所執行官による現況調査が行われる
裁判所の執行官が競売予定の物件を訪れ、写真撮影や家族・周辺住民への聞き取り調査などの現況調査をします。
債務者が現況調査を拒んだ場合、裁判所の権限により鍵を開けるなどし、強制的に現況調査を行うことになります。
【滞納から約13~16か月】裁判所から競売期間入札通知が届く
裁判所から債務者に対し、競売期間入札通知書が届きます。
競売の入札日と開札日が具体的に記載された書類です。
すでに任意売却の活動を進めている方は、この通知を確認の上、遅くとも開札日の前日や前々日までには任意売却を終え、債権者に競売申立てを取り下げてもらうようにします。
任意売却の流れ
上記の競売の流れを踏まえた上で、今度は任意売却の流れを確認してみましょう。
任意売却を相談する不動産会社を選ぶ
任意売却の相談先を選びます。
主な相談先は不動産会社や司法書士、弁護士などですが、なるべく売却をスムーズに進めたいならば、任意売却の実績が豊富な不動産会社を選ぶことをオススメします。
不動産会社と任意売却の打ち合わせをする
住宅ローンの残債の額、滞納状況、物件売却のスケジュール等、債務者と不動産会社との間で具体的な打ち合わせをします。
不動産会社と媒介契約を結ぶ
債務者が不動産会社の方針に納得できたら、両者の間で媒介契約を結びます。
不動産会社に売却活動を仲介してもらうための契約です。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。
任意売却の場合には不動産会社1社のみに仲介を依頼する「専任媒介契約」か「専属専任媒介契約」のどちらかを結ぶことが一般的です。
債権者(保証会社等)と任意売却の交渉をする
債権者(保証会社等)のもとへ赴き、任意売却の交渉をします。
債権者が任意売却に了承した場合、抵当権を外してもらうことができるため、物件の売却活動を始めることができます。
なお、任意売却の売り出し価格については、債権者に決定権があります。
不動産の売却活動を行う
対象となる不動産の売却活動を行います。
売却活動の方法や流れは、一般的な不動産の場合と同じです。購入希望者が現れれば、売主は内覧に応じることもあります。
買主と売買契約を締結する
売買が決まったら、債権者の合意を得た上で、買主との間で売買契約を締結します。
残債の支払い方法について債権者と交渉する
任意売却の代金のみで残債を完済できれば問題ありませんが、もし完済できない場合には、以後の返済方法について債権者と交渉します。
経済状態が厳しい中での返済となるため、現実的な返済計画を検討することとなります。
物件の引き渡しと代金の支払いを行う
売買契約に基づき、売主から買主へ物件の引き渡しを行い、同時に買主から売主へ代金の支払いを行います。
もし債権者が裁判所に競売の申立てを行っていた場合には、この時点で申立てを取り下げてもらうよう依頼します。
任意売却の注意点
任意売却の主な注意点を確認しておきましょう。
債権者の同意が必要
任意売却は、債務者の意向のみで自由に行うことはできません。
事前に保証会社などの債権者の同意が必要となります。
連帯保証人・連帯債務者の同意が必要
住宅ローンに連帯保証人や連帯債務者が設定されていたり、住宅に共同名義人が設定されていたりした場合、全員からの同意を得なければ任意売却はできません。
信用情報機関に情報が掲載される(ブラックリストに載る)
一般的に、住宅ローンの滞納が3か月続くと、信用情報機関に金融事故として情報が登録されます(ブラックリストに載る)。
任意売却は、住宅ローンの滞納から4~7か月後の代位弁済通知の後に行うものなので、任意売却を始めた時点で、すでにブラックリストに情報が掲載されています。
買主が現れなければ競売になる
売却活動を行ったとしても、必ずしもタイムリミットまでに買主が見つかるとは限りません。
買主が見つからない状態のまま、不本意にも競売開札日を迎えることがあります。