懸案だった任意売却が無事に終わったとしても、買主との間でリースバックなどの特別な契約を結んでいない限り、売主は期日までに家を立ち退かなければなりません。任意売却を選択せざるを得なかった経済状況の中、引っ越し費用に苦慮する方も多いことでしょう。
売主の本音として、「任意売却後の引っ越し費用を売却代金から払ってもらえれば…」という気持ちも持つかもしれません。
しかし、果たして債権者とそのような交渉をはできるのでしょうか?
ここでは、任意売却後の引っ越し費用について詳しく解説しています。
基本的に任意売却後の引っ越し費用は売主の自腹になる
まずは原則論ですが、任意売却後の引っ越し費用を債権者から出してもらうことはできません。
任意売却が成立したとは言え、債権者が債権を全額回収できることは稀です。
一般的には、引き続き債権を回収する状況が続くことになります。そのような中で債務者を個人的に救済する理由は、債権者にはありません。
売主は、いかに経済状態が苦しくても自腹で引っ越し費用を捻出することになります。競売においても同様に、売主が引っ越し費用を自分で用意しなければなりません。
以上が原則論となります。
ただし実際の任意売却の実務においては、債権者が売却代金の中から、売主の引っ越し費用を出してくれる例が多く見られることも事実。「出してもらえるのが当然」とは考えず謙虚な気持ちになって交渉すれば、債権者の人情として引っ越し費用を出してもらえる可能性もあるでしょう。
例外的に債権者から引っ越し費用を出してもらえることがある
債権者から確実に引っ越し費用を出してもらうためには、事前に「費用の控除」の特約を設定しておく必要があります。
「費用の控除」の特約とは、本来は売主が負担する費用について、債権者が売却代金から支払うことを約束するものです。特約の中に「引っ越し費用」を含めれば、任意売却後の引っ越し費用を債権者に負担してもらうことができます。
ただし、単に引っ越し費用を「費用の控除」に加えてほしい旨を伝えただけで、債権者が簡単に同意してくれることはありません。同意を得るためには、売主との間で「言葉」ではなく、次に挙げるような「心」の疎通が前提となるでしょう。
自助努力では引っ越し費用を出せないことを誠心誠意伝える
頑張れば引っ越し費用を捻出できる売主に対し、債権者が引っ越し費用を出してくれることはありません。そうである以上、いかに頑張っても引っ越し費用を出せない状況であることを、誠心誠意、債権者に伝える必要があるでしょう。
自分の預金通帳を提示したり、家族の逼迫した生活状況を伝えたりなどし、現在の状況を債権者に理解してもらえるよう心から伝えます。
債権者との間で信頼関係を築く
いかに売主が現在の苦境を説明しようとも、債権者から信頼されていなければ、その説明は一蹴されます。誠心誠意の説明を債権者の心に届けるためには、事前に債権者との間で信頼関係を築いておくことが大切です。
例えば任意売却の過程における債権者への連絡をスピーディに行ったり、債権者からの問い合わせに対してクイックレスポンスを徹底したり、または終始謙虚な言葉遣いと態度で接したりしていれば、徐々に債権者との間で信頼関係が作られていくことでしょう。
債権者のために可能な限り高い価格で任意売却する
債権者にとってもっとも望ましい結果は、少しでも多くの債権を回収することです。たとえ結果的には債権者の希望する理想の価格には届かなかったとしても、売主は、その価格まで届くよう最善の努力をすべきでしょう。
努力の過程を逐一債権者に報告すれば、少なくとも「債権者のために少しでも高く売ろうと努力をしている」という姿勢だけは伝わります。その姿勢が信頼関係構築へとつながり、債権者は「引っ越し費用くらいなら…」という気持ちになってくれるかもしれません。
努力が実って売却益が出れば、債権者に引っ越し費用を出してもらう必要もないでしょう。
引っ越し費用を出してもらう場合には費用の項目を確認する
誠意が伝わって債権者に引っ越し費用を出してもらえることになったとしても、債権者と売主が考えている引っ越し費用の範囲に齟齬があっては、トラブルになりかねません。
引っ越しに関連する費用には、家財の輸送代だけではなく、不用品の処分代や鍵の交換代、消毒代などがあります。賃貸物件に引っ越すのであれば、敷金や礼金、火災保険料などもかかることでしょう。他にも、引っ越し関連費用には多々あります。
これらの費用うち、債権者はどの範囲を「引っ越し費用」として定義しているのか、売主はしっかりと確認しておくことが重要です。なお、不用品の処分代も鍵の交換代も、消毒代も敷金・礼金も、火災保険料なども、基本的に債権者は「引っ越し費用」として想定していません。
引っ越し費用以外に債権者から出してもらえる可能性のある費用
債権者との交渉次第になりますが、本来は売主が負担すべき各種費用について、引っ越し費用の他にも売却代金の中から出してもらえることがあります。
例えば次に挙げる費用は、債権者との交渉で、売却代金の中から出してもらえる可能性のある費用となります。
任意売却の際に不動産会社へ支払う不動産仲介手数料
任意売却が成立した場合、成功報酬として不動産会社に不動産仲介手数料を支払う形となります。
不動産仲介手数料の上限金額は「売却価格×3%+6万円+消費税」。決して安い金額ではありません。
抵当権抹消費用
任意売却を行うためには、債権者に対象物件の抵当権を抹消してもらわなければなりません。抵当権抹消にかかる主な費用は、登録免許税や登記情報代、郵送料、司法書士への代行手数料などとなります。
滞納中の各種税金
任意売却を余儀なくされる経済状況の中では、各種税金を滞納しているかもしれません。滞納の可能性がある税金は、住民税、固定資産税、都市計画税などでしょう。
滞納中の管理費・修繕積立金
任意売却の対象物件がマンションの場合、管理費や修繕積立金の滞納している方も少なくないでしょう。