離婚したのに妻が支払う?…元夫の住宅ローンの滞納
事例1.住宅ローンの連帯保証人、離婚しても有効なの?
結婚して住宅を購入したというAさん(女性)。銀行で住宅ローンを組む際、Aさんはご主人の連帯保証人となりました。ところが新居での結婚生活を送る中、徐々に夫婦の間に亀裂が生じ、住宅ローンが残った状態のまま離婚。夫はそのまま自宅に住み続け、Aさんは自宅を出て別の場所で生活することになりました。
それからしばらく経ち、Aさんのもとに、離婚前の家の住宅ローンでお世話になった金融機関から一通の通知が届いたそう。開封してみると、元・ご主人が住宅ローンを滞納しているため連帯保証人であるAさんに返済してほしい、との内容でした。
すでに元・ご主人とは離婚し、また別の場所で生活していたAさんにとっては寝耳に水。「そもそも離婚したのに連帯保証人として住宅ローンを払う義務があるの?」という疑問が浮かびました。
住宅ローンをめぐり、このような事例は少なくありません。離婚後もその家に住み続けているならばいざ知らず、すでに別の家に住んでいる元・奥様にとっては、このような事態は非常に理不尽だと感じることでしょう。
しかしながら、住宅ローンの実務においては「離婚したら連帯保証人ではなくなる」という解釈はありません。離婚して別の場所に住んでいても、連帯保証人としての責務を逃れることはできないと考えてください。
早急に元・ご主人と連絡を取り、今後の方針を話し合うべきでしょう。話し合いの場には、できる限り専門家(不動産会社や弁護士など)を同席させるようおすすめします。
事例2.慰謝料代わりに夫が住宅ローンを払う約束だったのに…
離婚が決まり、お子様の親権を持つことになったBさん(女性)。お子様の学区や生活環境を変えたくないという理由から、そのままBさんとお子様が家に住み続け、元・ご主人は別の場所で生活をしながら、慰謝料として住宅ローンの残りを支払い続けると約束しました。離婚から3年後、元・ご主人がローンを支払い続けているはずの金融機関からBさん宛に1通の通知が。開けてみると、元・ご主人がローンの滞納をしているため、代わりに連帯保証人のBさんに返済してほしいとの内容でした。
そのころ元・ご主人は、新しい家族とともに賃貸住宅に住んでいたそう。元・ご主人としては、家賃と住宅ローンの二重負担に加え、翌年にはお子様の誕生が控えていたことから、どうしても住宅ローンの返済に手が回らない状態だったようです。
元・ご主人の状況がどうあれ、Bさんにとっては元・ご主人の裏切り行為にしか感じられませんでした。
この状況に対してBさんは、「住宅ローンを自分が払うので、住宅ローンと住宅の名義を自分に変更したい」と考えたそうです。しかしながら、金融機関としては、元・ご主人の属性調査等を経て元・ご主人を主契約者に立てたローンである以上、途中から主契約者の名義を変えることに前向きではありません。もとより住宅ローンは「主契約者が住み続ける」という基本前提で契約するものなので、元・ご主人が家を出たこと自体が契約違反なのです。
Bさんは、「元・夫との間で賃貸契約を結び、元・夫に家賃を払い続ける形で住み続けることはできないか」とも考えましたが、もしその家が競売にかけられた場合には住み続けることができないことを知ります。
Bさんが別途で住宅ローンを組み、元・ご主人から家を買って住み続けるという方法はありますが、仮にBさんが住宅ローンを申し込んだとしても、金融機関から偽装離婚等を疑われるため、審査は非常に厳しくなるでしょう。
離婚しても住宅ローンは消えない。別離の前に確認すべきこと
ご紹介した事例を見るに、感情的には納得できない人も多いのではないでしょうか。しかしながら、どんなに理不尽な状況であっても、契約実務上は上記のような結論にならざるを得ません。後になってから困ることのないよう、住宅ローンが残った状態でご夫婦が離婚する際には、次のような点を確認しておく必要があります。
住宅ローンの名義人を確認
住宅ローンの残債がある状態で離婚する場合、まず住宅ローンの名義人を確認しましょう。住宅ローンの支払い義務は住宅ローンの名義人にあるからです。
離婚に際し、住宅ローンの名義人ではない人(奥様など)が名義人(ご主人など)からのローン残債の折半等を要求されたとしても、それに応じる法的義務はありません。
ただし、一般的には残債をご夫婦で折半する例が大半であることも理解しておきましょう。
連帯保証人を確認
住宅ローンが残ったまま離婚する時には、ローンの連帯保証人が誰なのかを確認しておくことが大切です。多くの場合、ご主人が主契約者で奥様が連帯保証人という形ですが、そのままの状態で離婚してしまった場合、上の事例でご紹介したようなトラブルに陥るリスクがあります。
もし返済中の住宅ローンの連帯保証人から名前を外したければ、主契約者(ご主人など)に借り換えをしてもらうことが必要です。あるいは、新たに資金力のある人(ご主人のご兄弟など)を立てて金融機関に連帯保証人変更を相談すれば、実現可能性は低めではあるものの、応じてもらえることがあります。
住宅ローンの支払い割合を決める
住宅ローンが残ったまま離婚する場合、双方の住宅ローンの支払い割合を決めるようにしましょう。
たとえば残債が2000万円あるならば、ご主人が1000万円、奥様が1000万円という形でも構いません。返済義務者は住宅ローンの名義人にありますが、上述の通り、離婚する際の支払い割合は折半となる形が通例です。
ただし、もしご主人が奥様に対して慰謝料や養育費を支払う約束をしたのであれば、その分を考慮した支払割合にしても良いでしょう。
たとえば、住宅ローンの残債が2000万円あり、且つご主人から奥様への慰謝料・養育費の合計額が1000万円ならば、住宅ローンの支払割合をご主人が2000万円、奥様が0円とする形です。
双方でよく話し合い、住宅ローンの支払い割合を明確に決めておくことが大切です。
住み続けるか、売るかを決める
離婚後、ご夫婦のどちらか一方が家に住み続けるのか、それとも家を売るのかを決める必要があります。
仮に住宅ローンの名義人であるご主人が住み続け、かつ住宅ローンを返済し続けるというならば、特に問題はありません。一方で、連帯保証人である奥様が住み続ける場合には、ローンの支払い割合を決めるなどの様々な話し合いが必要になるでしょう。
また、家を売る場合には、オーバーローン(売却額がローンの残債額を下回ること)の問題が生じることがある点に注意が必要です。オーバーローンとなる場合、完済に不足する部分を自己資金で補わない限り、売却自体ができません。
なお、オーバーローンの状態のまま自己資金を入れずに家を売却したい場合には、「任意売却」という選択肢があることも覚えておきましょう。
ペアローン(共同債務者)の場合
ご主人の名義で契約した住宅ローンと奥様の名義で契約した住宅ローンを合算する借入方式のことを、ペアローン(共同債務)と言います。
一方が主で他方が従という形ではなく、夫婦ともに主という2つの契約であるため、それぞれの残債が残った状態で離婚する場合には問題が複雑化します。
仮に奥様が主契約名義を外したいならば、ローンを早めに完済してしまう方法が最も現実的です。奥様の持ち分をご主人が買い取ってローンの借り換えを行う方法もありますが、夫婦合算した巨額なローンの借り換えを行うためには、ご主人に相応の年収がなければなりません。
夫に住宅ローンを滞納させないためには
離婚後、ご主人に住宅ローンを滞納させないためには、離婚協議の際にローンの返済を必ず続けることを約束させることが第一です。ただし、口約束や紙に書いただけの約束では、必ず守ってもらえる保証がありません。そこで、より実効性の高い方法として、ご主人に対して次のような提案をしてみてはいかがでしょうか。
・ご主人に残債を一括払いしてもらって借金自体をなくす
・ご主人にローンを借り換えてもらい奥様は連帯保証人から外れる
・ローンを滞納したら差し押さえるという内容の公正証書を作成しておく
互いに感情的にならないよう、第三者を交えて話し合えれば理想です。
滞納していて連帯保証人を外れられない場合の回避策
元・ご主人の住宅ローン滞納に関してよくある事例、および、離婚前に奥様が確認しておきたい事項について詳しくご紹介しました。
元・ご主人の滞納が続けば、早い段階で金融機関・保証会社などから住宅ローンの一括返済請求の通知が届きます。しかしながら、滞納している元・ご主人に一括返済できる余力があるとは思えません。連帯保証人の元・奥様もまた、一括返済をするには困難を極めることでしょう。
一括返済ができなければご自宅が競売にかけられる流れとなりますが、競売物件は不動産相場の50~70%程度の価格で売買されることが一般的なので、競売成立後もまだまだ大きな残債が残り続けることでしょう。
債務者にとって少しでも有利な条件でご自宅を売却する方法として「任意売却」があります。任意売却とは、債権者から抵当権の抹消の約束を得てから売却活動をするという方法で、競売に比べて高い価格で売却できることが一般的です。競売に比べ、残債を大きく減らせる可能性があるため、ご自宅を売却した後の負担が競売よりも軽くなることでしょう。買主との交渉にもよりますが、そのままご自宅に住み続けることも可能です。
当社ECエンタープライズは、これまで数々のお客様に任意売却のお手伝いをさせていただいている任意売却専門企業になります。元・ご主人の家賃の滞納や連帯保証人への請求等にお困りの方は、ぜひ当社ECエンタープライズまで、お気軽にご相談ください。