売却価格が高いケース
任意売却と一般売却は、売却に至るまでのプロセスそのものは全く違うものの、売却活動そのものは、不動産の一般市場で行うという点において基本的に変わりません。一般売却でもなかなか買い手がつかないことがあるのと同様、任意売却でも買い手がつかないことは、決して珍しくないと考えましょう。
買い手がつきにくい最大の理由は、物件の価値に対して売却価格が高いことです。買い手が「ちょっと高い」と感じた物件が売れにくくなることは、任意売却も一般売却も同じです。
ただし、ここで大きな問題があります。一般売却の場合であれば、売主の任意で売却価格を下げることができますが、任意売却の場合は、売主の一存で売却価格を下げることができません。その理由は、任意売却の売却価格決定権は債権者にあるからです。
債権者は少しでも多くの債権を回収したいと思うため、強気の売却価格を設定することがあります。価格を下げるよう相談しても、なかなか同意してくれないケースがあることを理解しておきましょう。
対処法:債権者に適正価格に設定しなおしてもらう
不動産会社の担当者から債権者に対し、この価格ではなかなか売れないことを説明してもらいます。あわせて、債権者にとっても競売より任意売却のほうが有利になることが多い点を伝えてもらい、価格面での妥協をお願いしましょう。
内覧に積極的でないケース
家がきたない、設備が故障している、部外者に家の中を見られたくない、同居者が内覧を嫌がっている等々の理由で、内覧に積極的でない方がいますが、住宅の売却において内覧は必須です。買主の立場に立てば、見たこともない家を買う気にはなれないことは、容易に想像できるでしょう。
対処法:家を綺麗にして内覧を積極的に受け入れる
家の中を綺麗にする、家の周りを綺麗にするなど、できる限りのことを行った上で、内覧を積極的に受け入れるようにしましょう。内覧に訪れる方がいれば、誠実に丁寧に対応することも売却成立の可能性を高める重要な要素です。
物件の状態が悪いケース
価格を適度に抑えつつ積極的に内覧を受け入れているものの、なかなか買い手がつかない場合には、物件の状態に問題がある可能性があります。主要な設備の劣化、雨漏り、シロアリなど、客観的に見て物件の状態に問題がある場合、かえって内覧で悪印象を与えかねません。
対処法:可能な限りメンテナンスを行う
DIYでできるメンテナンスであれば、可能な限り行っておきましょう。専門業者が必要なほど状態が悪ければ、売却価格を再検討するか、またはコストをかけて修繕するかしかありません。
売却活動のための十分な時間がないケース
よほど運の良い場合を除き、不動産物件の売却は短期間で成立するものではありません。通常、売却には数ヶ月の期間を要するため、競売入札ぎりぎりになってから売却活動を始めても、時間切れになってしまう可能性があるでしょう。
対処法:早めに不動産会社に相談する
十分な時間をかけなければ売却が成立しないという認識を持ち、早めに不動産会社まで任意売却の相談をすることが大切です。返済の目途が立たなくなった場合には、初回の督促が入る前から不動産会社に相談できれば理想です。
不動産会社との媒介契約の種類が不適切なケース
任意売却を行う前提として、不動産会社と媒介契約を結ぶ必要があります。媒介契約には3種類がありますが、任意売却に適切な契約形態であるかどうかを確認してみる必要があるでしょう。
1つ目の契約形態が、一般媒介契約です。複数の不動産会社と同時に契約することができ、売主が自分で買主を探すこともできます。ただし、不動産会社にはレインズに登録する義務も、売主に営業活動を報告する義務もありません。
2つ目の契約形態が、専任媒介契約です。1つの不動産会社としか契約できませんが、売主が自分で買主を探すこともできます。不動産会社は、契約から7日以内に物件情報をレインズに登録し、2週間に1度のペースで売主に営業活動の状況報告を行わなければなりません。
3つ目の契約形態が、専属専任媒介契約です。1つの不動産会社としか契約できず、売主が自分で買主を探すことはできません。
任意売却に不適切な契約形態を結んでいる場合、なかなか買主が現れない可能性があります。
対処法:媒介契約の種類を見直す
現状の媒介契約を再確認し、より適切と思われる媒介契約に変更しましょう。一般に任意売却は専任媒介契約か専属専任媒介契約が選ばれる傾向がありますが、多くの不動産会社が一斉に営業活動をしてくれるという点において、一般媒介契約のほうが早く買主が見つかることもあります。
不動産会社の選び方が不適切なケース
不動産会社の取り扱い範囲は非常に広いため、各不動産会社には得意分野と苦手分野があります。一戸建ての売買を得意とする不動産会社もあれば、集合住宅の売買を得意とする不動産会社もあります。また、賃貸物件の取り扱いが得意な不動産会社もあれば、投資用物件の取り扱いが得意な不動産会社もあります。同様に、任意売却を得意とする不動産会社もあります。
任意売却の実績が少ない不動産会社に任意売却を依頼すれば、買主を見つけることに苦労する可能性があるでしょう。
対処法:任意売却の実績が豊富な不動産会社に変更する
公式HPなどを参照し、任意売却の実績が豊富な不動産会社を探して契約をしましょう。「任意売却専門」を謳うほど、任意売却に力を入れている不動産会社もあります。
利害関係者全員の同意がないケース
買い手がつかない以前の問題ですが、そもそも任意売却は、その物件の利害関係者全員の同意があって初めて行える手続きです。債権者はもとより、共同名義人や連帯債務者、連帯保証人などの同意を得ていなければ、任意売却そのものを行うことができません。
対処法:説得する
利害関係者全員に対して誠実に状況を説明し、同意を得られるまで説得するしかありません。競売開始日までに売却を成立させなければならない等、タイムリミットがある活動であることもしっかりと伝えましょう。
買い手がつかなかった場合にはどうなる?
競売にかけられて自宅を失う
いつまで経っても買い手がつかない状況が続けば、債権者は裁判所に対して競売の申し立てをすることになるでしょう。申し立てから約半年後、実際に競売が実行されることになります。
競売が成立すれば、指定の期日までに家を明け渡さなければならず、引越しを余儀なくされます。引っ越し先によっては、お子様の転校も必要になるかもしれません。
残債の返済が続く
競売で得た代金を住宅ローンの返済に回したとしても、一般に完済は難しいでしょう。なぜならば、競売で成立する価格は市場価格の60〜80%だからです。任意売却で市場価格での売買が成立したとしても完済は難しいとされているので、ましてや競売で完済することは困難と言わざるを得ません。
もし競売でも完済ができなければ、残債の返済義務が続きます。残債は一括返済が原則ですが、債権者と協議の上、分割返済が認められる場合もあります。
最悪の場合は自己破産となる
残債の返済目途も立たない場合には、自己破産となる可能性があるでしょう。
自己破産となった場合、残債の返済義務はなくなるものの、生活に必要な最低限の財産以外は没収されるため、必ずしも生活が楽になるとは限りません。
また、自己破産をした場合には、以後5〜10年ほど、いわゆるブラックリストに情報が残ることになります。新規での住宅ローンの契約やクレジットカード、カードローンの利用などに制限がかかることは避けられません。