住宅ローンの返済が困難になり、かつ他の借金の返済も滞ってしまった場合、最終手段として選択されるのが自己破産。
すべての借金から解放される点ではメリットの大きい自己破産ですが、たくさんのデメリットがある手段でもあるため、可能ならば避けたい方法です。
ここでは、自己破産の概要や注意点、手続きの流れなどをご紹介するとともに、自己破産を回避できる可能性のある手段として、不動産の任意売却について解説しています。
自己破産とは
自己破産とは、現在所有している大半の財産を手放すことを条件に、すべての借金を帳消しにしてもらう法的手続きを言います。
破産法という法律に基づき、裁判所を通じて行う手続きとなります。
自己破産は、破産申立てをした本人の財産状況に応じ、大きく「管財事件・少額管財」と「同時廃止」の2種類に分かれます。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
管財事件・少額管財とは
破産申立てをした本人が比較的多くの財産を所有していた場合、裁判所から破産管財人が選任されて「管財事件」または「少額管財」という破産手続きに入ります。
管財事件・少額管財とは、破産申立てをした本人が所有する財産を処分して現金化し、債権者に分配して返済した上で自己破産を完了させる手続きのこと。
莫大な資産がある人は管財事件として扱われ、管財事件ほどの資産がない人は少額管財として扱われます。
なお、管財事件であれ少額管財であれ、裁判所に「予納金」と呼ばれる高額な費用を支払わなければなりません。
予納金の額は裁判所により異なりますが、少額管財の場合は20万円前後、管財事件の場合は負債総額に応じ50万~数百万円となります。
同時廃止とは
破産申立てをした本人にほとんど財産が残されていない場合、破産管財人が選任されず「同時廃止」という破産手続きに入ります。
ほとんど財産が残されていない以上、債権者に分配する返済分もないため、手続きは簡易的かつ速やかに完了します。同時廃止の場合は予納金を納める必要はありませんが、各種手数料などで約1万5千円前後の費用がかかります。
自己破産の注意点
すべての借金から解放され、督促もなくすっきりとした気持ちで人生をやり直せる自己破産。
最低限の生活に必要なものは処分されることもないので、様々な借金にお困りだった方においては、一見、理想的な解決法にも思えます。
ただし、実際に自己破産する場合には、自己破産特有の注意点を十分に理解しておく必要があります。以下、自己破産の主な注意点を確認してみましょう。
ブラックリストに載る
自己破産をした場合には、信用情報機関にその情報が登録されます。いわゆる「ブラックリストに載る」という状況です。
自己破産を理由にブラックリストへ載った場合、以後5~10年は、新たにローンを組むことはほぼ不可能。
新規でクレジットカードを作ることもできなくなるでしょう。
なお、すでに所有済みのクレジットカードについては、当面の間は使用可能ですが、いずれ使用できなくなる可能性が高いと言われています。
一定期間は職業の制限を受ける
自己破産の手続きから免責が決定するまでの間(3~6か月)、一定の職業に就くことができなくなります。
具体的には、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、不動産鑑定士、社労士、行政書士、警備員などです(他にも多数あり)。
保証人に迷惑をかける
自己破産とは、あくまでも破産申立てをした本人にのみ適用される措置であり、保証人には適用されません。
仮に自己破産が成立したとしても、保証人の返済義務は残り続けます。
破産の事実が官報に掲載される
自己破産をした事実が官報に掲載されます。
一般の方々はほとんど目にしませんが、破産者の氏名や住所も掲載されることから、何らかのきっかけで勤務先や近隣に知られてしまう可能性がゼロではありません。
固定資産税などの税金滞納分は免除されない
自己破産すればすべての借金が帳消しとなると説明しましたが、厳密に言えば「私債権」はすべて帳消しになるものの、「公債権」は帳消しになりません。
私債権とは、銀行や知人などから借りた民間同士の債権・債務のことで、公債権とは、税金の滞納分のことです。
仮に自己破産が認められたとしても、固定資産税などの公債権については、納付が免除されません。
自己破産の手続きの流れ
自己破産の手続きの流れについて確認してみましょう。
1. 破産申立て
本人の住所を所轄する地方裁判所に赴き、必要書類を揃えて破産申立てを行います。
この際、破産申立て費用も支払います。
2. 審尋
破産申立てをした本人が裁判所の呼び出しに応じて出頭し、口頭で各種の質問を受けます。
3. 破産手続き開始の決定
管財事件(少額管財)や同時廃止など、破産手続きの実行が決定します。
4. 官報で公告
破産手続き開始の決定について、官報で公告されます。
5. 破産手続き開始の決定が確定
官報での公告から2週間後、破産手続き開始の決定が確定します。
上記の流れを経て、具体的に破産手続きが始まります。
管財事件の場合には、手続き完了までに半年から1年ほどの期間を要しますが、同時廃止の場合には2~3か月ほどで破産手続きが終わります。
自己破産の手続きに必要な書類
– 自己破産申立書
– 陳述書
– 反省文
– 債権者一覧表
– 資産目録
これらの他、自己破産申立書に添付する書類として、次のものが必要となります。
– 本籍が記載されている住民票(写し)
– 過去1~2年分の源泉徴収票
– 課税証明書・非課税証明書
– 預金通帳
– 居住証明書が可能な書類
– 保有資産に関する書類(車検証等)
– 解約返戻金証明書、など
裁判所により求められる書類が異なることもあるので、手続きの際には、裁判所や弁護士等に確認することが必要です。
「偏頗弁済(へんぱべんさい)」が行われると自己破産できない
借金の返済が厳しくなっている中、自己破産する前に特定の債権者のみに借金を返済する行為を「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と言います。
偏頗弁済が行われた場合、自己破産を申立てたとしても、裁判所から申立てを認めてもらうことはできません。
自己破産は、破産管財人が債務者の所有する財産を調査し、債権者に対して「平等に返済」を行うことを趣旨の1つとしています。
あくまでも財産の返済先や返済金額を決めるのは破産管財人であり、債務者本人ではありません。偏頗弁済はこの趣旨に反した行為となるため、裁判所は自己破産の申立てを却下することになります。
なお、「特定の債務者のみに借金を返済する」という点において、後述する任意売却も偏頗弁済に該当しそうですが、任意売却は偏頗弁済に「該当しない」ことも覚えておくと良いでしょう。
任意売却とは
住宅ローンの返済が難しくなった場合、一般的には債権者の申立てにより不動産が競売にかけられます。
この競売を避けるための有効な手法の1つが任意売却です。
不動産を売却する場合、不動産に付帯している抵当権を外さなければなりません。
抵当権を外すためには、住宅ローンを完済している必要があります。つまり、住宅ローンの返済が難しい方は抵当権を外すことができないため、不動産を売却できないということになります。
この原則論を外して不動産を売却する特殊な手法が任意売却。
債権者と交渉し、抵当権を外してもらった上で不動産を売却するというやり方です。
任意売却のメリット
任意売却は、通常の不動産売却とは異なる特殊な手続きとなりますが、売却方法そのものは、通常の不動産売却と異なりません。
そのため、競売よりも高い価格で売却できる可能性があります。債務者としては競売より残債が少なくなることも期待され、債権者は競売よりも回収額が大きくなることも期待されます。
任意売却は、債務者と債権者の双方にメリットがある手続きと言って良いでしょう。
また、本来は任意売却した本人が支払うべき不動産仲介手数料や引越し費用などのコストを、任意売却の代金から充当させられる可能性がある点にも注目したいところ。
本人が別途で現金を用意する必要は、ほとんどありません。
加えて、不動産の買主とリースバック契約を結んでいた場合には、買主に家賃を払う形で、そのまま同じ家に住み続けられる点も見逃せません。
家賃を払って住み続けながら、収入が好転した場合には家を買い戻すことも可能です。
任意売却の注意点
住宅ローンの返済が厳しくなった際の有効な手段となる任意売却ですが、実際に任意売却を行う際には、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。
例えば、任意売却にはタイムリミットがあるという点。
返済が厳しくなった場合、一般的に債権者は裁判所へ競売の申立てを行います。しかし、もし競売の開札日までに任意売却が間に合わなければ、不動産は競売にかけられることとなります。
任意売却を選択したならば、売却価格において多少の妥協をしたとしても迅速に売却活動を進め、競売開札日というタイムリミットまでに買主を見つける必要があります。
また、任意売却は債務者本人の意向のみで行えるわけではない点にも要注意。
債権者の同意が必要なことはもちろんのこと、連帯保証人や連帯債務者、共同名義人など、返済に関与する全員の同意があってはじめて行える手続きとなります。
自己破産と任意売却を両方やる場合にはどちらが先?
自己破産とは異なり、任意売却は借金を帳消しにしてもらう手続きではありません。
不動産の売却代金を債権者の返済に充て、その上で残債が生じた場合には、引き続き残債の返済を続けていくことになります。
そのため、中には「自己破産と任意売却を両方やりたい」と思う方がいるかもしれません。
結論から言うと、自己破産と任意売却を両方とも行うことは可能です。
ただし両方を行う場合には、より有利になる順番で手続きを進めるようオススメします。
任意売却を先に行い自己破産を後に行う
先に自己破産の申立てを行った場合、所有している不動産が「高額な財産」とみなされる可能性が高く、「管財事件」が適用されて高い予納金を求められる可能性があります。
一方で、先に任意売却を行ってから自己破産を申立てた場合、すでに不動産を手放しています。
そのため「債権者に分配する財産がほとんどない」と判断され、「同時廃止」として処理されることが一般的です。
先にご説明した通り、同時廃止となった場合には予納金を納める必要がなく、各種費用は合計1万5千円ほどと安価で済みます。
自己破産と任意売却の両方を行う場合には、「任意売却が先、自己破産が後」と理解しておきましょう。
【参考】自己破産の他の債務整理
自己破産は「債務整理」と総称される手続きのうちの1つです。
債務整理には、他にも「任意整理」「特定調停」「個人再生」の3種類があります。
参考までに、それぞれの概要を確認しておきましょう。
任意整理とは
任意整理とは、債権者との話し合いによって金利の減免を求める手続きのことを言います。
基本的に元本を減らすことはできませんが、債務者にとっては金利が免除されるだけでも、以後の返済が楽になることは間違いありません。
裁判所は関与せず、弁護士や司法書士などに交渉を依頼し、民間同士で債務問題の解決を図ります。
特定調停とは
特定調停とは、債権者との話し合いによって返済条件の見直しを求める手続きのことを言います。
目的そのものは任意整理と似ていますが、特定調停の場合、民間同士ではなく裁判所をはさんで行う点が異なります。
個人再生とは
個人再生とは、借金の額を法的に圧縮する手続きを言います。
ケースにもよりますが、個人再生が認められた場合には、借金の総額を最大で1/5~1/10まで圧縮が可能です。
個人再生は、裁判所に申立てを行う形で手続きを進めます。