ここでは、任意売却を弁護士に依頼するケースや弁護士に依頼した場合の費用、依頼の流れなどについて解説しています。
任意売却は、原則として債務者本人・債権者・不動産会社の三者のみで行われる手続きです。
ただし任意売却とあわせて行う手続きの種類によっては、弁護士の力を借りたほうが良いケースもあります。
任意整理で弁護士は基本的に不要!必要なケースは3つ
原則として、任意整理で弁護士を雇う必要はありません。
ただし、任意整理とあわせて別の専門的な処理をする場合には、弁護士が必要となることもあります。
原則として弁護士を雇う必要はない
基本的に、任意売却で弁護士が登場することはありません。
任意売却の手続き自体は、一般的な不動産売却と同じです。一般的な不動産売却で弁護士が登場しないのと同様、任意売却で弁護士が登場することもありません。
弁護士が登場しない以上、任意売却で弁護士費用が掛かることもありません。
ただし、任意売却に伴って債務の整理をする必要がある方については、不動産会社と並行して弁護士のお世話になることもあります。
任意売却に伴って弁護士のお世話になる主な例は、「任意整理」「個人民事再生」「自己破産」の3種類です。以下で、それぞれの概要を確認しておきましょう。
【弁護士が必要となるケース①】任意整理
任意整理とは、債権者に対して借金の返済額や返済方法を見直してもらうことを言います。
後述する個人民事再生や自己破産とは異なり、裁判所を利用することはありません。あくまでも債務者と債権者の交渉による手続きとなります。
裁判所が関与しないので、債務者が自分で債権者に交渉を持ちかけることも可能ですが、多くの場合は専門知識を持った弁護士や司法書士に仲介してもらう形となります。
なお、一般的な任意整理では住宅ローン以外の借金を対象に返済額・返済方法の見直しが行われます。
任意整理によって住宅ローン以外の借金の返済が楽になれば、住宅ローンを支払える状態になる可能性があるでしょう。任意売却自体を踏みとどまれるきっかけになるかもしれません。
「任意売却」と「任意整理」は名前が似ているため、両者を混同しないようご注意ください。
【弁護士が必要となるケース②】個人民事再生
個人民事再生とは、裁判所を利用して借金の額を大幅に減らしてもらう手続きを言います。
法律の専門的な知識が必要となる手続きですので、通常は弁護士に仲介してもらう形で行います。
個人民事再生の対象となる借金には住宅ローンが含まれないため、「住宅ローンの残債を減額して家に住み続ける」ということはできません。
ただし、個人民事再生によって他の借金を大幅に減らせることから、住宅ローンの返済は楽になることでしょう。
住宅ローンを返済中の方が個人民事再生を行う場合には、「住宅資金特別条項付き個人民事再生」という手続きが必要になります。一般的に「住宅ローン特則付個人再生」などと呼ばれる手続きです。
この手続きによって裁判所から再生計画が承認されれば、住宅ローン以外の借金が大きく減額される仕組みとなります。
なお、裁判所から個人民事再生が承認されると、住宅ローン以外の借金の最低弁済額は、以下のように減額されます。
– 借金100万~500万円の場合…100万円
– 借金500万~1500万円の場合…借金総額の1/5
– 借金1500万~3000万円の場合…300万円
– 借金3000万~5000万円の場合…借金総額の1/10
個人民事再生によって住宅ローンの支払いが可能となれば、自宅を任意売却する必要はありません。
逆に、個人民事再生を行っても住宅ローンの支払いが困難であれば、自宅の任意売却を検討する必要が出てくるでしょう。
【弁護士が必要となるケース③】自己破産
自己破産とは、裁判所を利用して借金をゼロにしてもらう手続きを言います。通常、住宅ローンやカードローンなどの多重債務により返済がまったく困難となった方が行う手続きです。
法律の専門的な知識が必要となる手続きですので、自己破産に詳しい弁護士の力を借りることが必要になるでしょう。
なお、原則として債務者本人に財産がある場合、自己破産はできません。
住宅ローンを返済中の自宅も財産とみなされることから、自己破産に際しては任意売却や競売で自宅を手放す必要があります。生活に必要な最低限のものを残し、あらゆる資産を売却することが自己破産の前提です。
資産を売却するのは破産管財人と呼ばれる弁護士。
弁護士が行う以上は弁護士費用が発生しますが、費用は住宅などの売却代金の中からまかなわれるので、債務者の持ち出しはありません。
ちなみに、たとえ裁判所が自己破産を認めたとしても、連帯保証人の返済義務が同時に消えるわけではありません。債務者が自己破産すれば、債権者は連帯保証人に一括返済を求めるのが通常です。
もし一括返済できなければ、連帯保証人も自己破産する可能性があります。
弁護士に依頼して任意売却をする流れ
任意売却自体は不動産会社が行うものですが、弁護士を窓口として任意売却を行うことも可能です。
特に、任意売却とあわせて債務整理(任意整理・個人民事再生・自己破産など)をお考えの方は、弁護士への相談が欠かせないでしょう。
①弁護士に相談する
任意売却を手がけた実績のある弁護士事務所を探し、予約してから事務所へ相談に行きます。
弁護士事務所には、それぞれ得意分野があるので、任意売却を得意としているかどうかを確認しておくことが大切です。
相談に行く際には、次のような書類を持参していくと良いでしょう。
– 不動産売買契約書、および関連書類一式
– 住宅ローンの契約書
– 住宅ローン以外の借入先一覧表
– 借金の合計額が分かる書類
– 家の財務状態が分かる書類(預金通帳など)
– 給与明細 など
他にも、弁護士事務所から求められた書類を漏れなく用意しましょう。
なお、相談すべき弁護士事務所を自分で判断できない場合には、後述する「都道府県弁護士会」や「法テラス」に問い合わせてみましょう。
②弁護士と委任契約を結ぶ
初回相談の上、弁護士から今後の方針や費用などについての説明が行われます。
これらの提案に対して納得できた場合には、弁護士と委任契約を結ぶ形となります。
なお、住宅ローンを滞納するほど金銭的に困窮している中で、弁護士費用まで払う余裕がない方も多いかもしれません。
しかし任意売却の際に債権者と交渉すれば、売却代金の中から弁護士費用を捻出してもらえることもあります。その点についても弁護士に相談してみると良いでしょう。
③任意売却の交渉をしてもらう
弁護士が債権者(銀行など)のもとに赴き、任意売却に関して交渉します。
不動産を売却するためには抵当権を外さなければなりませんので、交渉は「任意売却をするために抵当権を外してほしい」という内容になります。
債務者や連帯保証人に返済する力がなければ、やがて住宅は競売で売却されることになりますが、一般的に競売の価格は任意売却の価格より低くなる傾向があります。
そのため、少しでも多くの金額を回収したい債権者にとって、競売よりも任意売却を選択したほうがメリットは大きいと言えるでしょう。
④不動産の売却活動を行う
すべての債権者からの同意、連帯保証人の同意、共同名義人の同意が得られたのち、任意売却の活動をスタートさせます。
任意売却を行うのは、弁護士ではなく不動産会社です。
通常の不動産売却と同様、不動産会社と媒介契約を結んで売却活動を進めます。媒介契約を結ぶ不動産会社は任意で選べますが、弁護士から適切な不動産会社が紹介されることもあります。
なお、すでに競売の申し立てが行われている場合には、競売が成立する前に任意売却を終えなければなりません。
時間的な余裕がないため、相場よりもやや低い価格での任意売却になる可能性がある点を承知しておきましょう。
任意売却を弁護士に依頼するメリット
以下、任意売却を弁護士に依頼するメリットについてご紹介します。
任意売却とあわせて債務整理を依頼できる
カードローンなどの多重債務を抱えている方の中は、家を任意売却するくらいでは借金問題が解決しない、という方もいます。
そのような方にとっての現実的な解決策は、債務整理です。
債務整理には主に任意整理、個人民事再生、自己破産の3種類がありますが、これらの手続きには法律の専門知識が必要です。
任意売却とあわせて債務整理の相談もできる点は、弁護士に依頼するメリットのひとつになるでしょう。
なお、債務整理は「借金を減免してもらう手続き」「借金の返済方法を見直してもらう手続き」ですが、関連する手続きとして過払い金請求があります。
過払い金請求とは、過去にカードローンやキャッシングを利用した方が、払いすぎていた利息を取り戻す手続きのこと。この過払い金請求についても、弁護士が対応できる分野のひとつとなります。
債権者からの督促が来なくなる
任意整理とあわせて債務整理をすれば、弁護士から債権者に対して「受任通知」という書面が送られます。
法律上、受任通知を受け取った債権者は債務者への取り立てをできなくなるため、以後は債権者からの督促状や督促電話が入らなくなります。
借金に関するやりとりは弁護士と債権者のみで行われる形となるため、債務者は精神的なストレスが大きく軽減するでしょう。
弁護士に依頼したことで安心感を得られる
任意売却を行うのは不動産会社ですが、任意売却の同意を得るための交渉や債務整理などの手続きについては、弁護士のサポートもあったほうが安心です。
「何か問題があっても弁護士先生がついているから大丈夫」という安心感を得られることは、弁護士に任意売却を依頼するメリットになるのではないでしょうか。
債権者の安心感につながる
任意売却は、家の売却代金を債権者に払えば終わり、という案件ではありません。
売却代金のみで住宅ローンが完済できなければ、引き続き債務者は残債を返済していく必要があります。
また、任意売却した家を立ち退く際、売却代金から債務者の引越し費用を捻出しなければならないこともあります。
任意売却は多くの側面を持つ案件なので、計画的かつ確実に処理してくれる弁護士がいれば、債権者側も安心できるでしょう。
「弁護士が間に入ってくれるならば安心」という理由で任意売却を承諾する債権者もいるようです。
任意売却に関連する弁護士費用
任意売却を仲介してもらうための不動産仲介手数料は、債権者との交渉次第で売却代金から捻出可能なので、基本的に売主は費用を負担することがありません。
滞納中のマンション管理費や修繕積立金、任意売却が終わった後の引越し費用まで売却代金から捻出できることもあり、中には持ち出しゼロで任意売却を終える売主もいます。
一方で、任意売却とあわせて弁護士に別の処理(自己破産など)も依頼した場合には、弁護士費用として「着手金」と「成功報酬」を支払う必要があります。
任意売却に伴って発生する可能性のある弁護士費用は、おおむね次のような相場となります。
任意整理を行う場合
着手金
債権者1件につき、3~5万円が必要です。
成功報酬
任意整理で減額となった借金の額の約10%が相場です。
また、一般的な手続きによって過払い金を回収した場合には回収額の20%程度、訴訟によって過払い金を回収した場合には回収額の25%程度が相場となります。
個人民事再生を行う場合
着手金
20~30万円が必要です。
成功報酬
裁判所から再生計画が承認された場合、10~20万円程度の成功報酬を支払います。
自己破産を行う場合
着手金
20~30万円程度が必要です。
成功報酬
裁判所から免責が承認された場合、10~20万円程度の成功報酬を支払います。
ただし弁護士事務所の中には、自己破産の成功報酬を無料としているところもあります。
弁護士の主な相談先
自分で信頼できる弁護士を探して相談しても結構ですが、どの弁護士に相談して良いか分からない方は、次の2つのどちらかに連絡してみると良いでしょう。
都道府県弁護士会
各都道府県にある弁護士会です。相談料は30分で約5,250円です。
法テラス
経済的な余裕のない方を対象に、無料の法律相談を行ったり費用立替で法律相談を行ったりする公的機関です。
相談内容に応じ、適切な弁護士や司法書士が紹介されます。
任意売却とは住宅ローンの返済途中で家を売ること
任意売却とは、住宅ローンの返済途中で住宅を売却することを言います。
本来、住宅を売却するためには、債権者(金融機関など)が住宅に設定した抵当権を外さなければなりません。
抵当権を外すためには、住宅ローンを完済する必要があります。つまり、住宅ローンが残った状態では、家を売却できないということです。
これを例外的に売却する手続きが任意売却。
債権者と交渉して抵当権を外してもらうことで、住宅ローン返済途中でも家を売却できる仕組みとしたものが任意売却です。
任意売却のメリット
任意売却を行う主なメリットを4点ほど見ておきましょう。
競売より高い金額で売却できる可能性が高い
住宅ローンの滞納が続くと、やがて債権者から家を競売にかけられる形となります。
競売での落札価格は、一般的な市場で売却する価格に比べて3~5割ほど安くなる傾向があるため、債権者が住宅ローンの残債を全額回収することは困難でしょう。
また、債務者にとっても残債が大きく残るため、できれば競売は避けたいところです。
一方で任意売却は、一般的に競売よりも高い価格で家を売却できることから、少しでも多くのお金を回収したい債権者にとっては有利な選択肢です。
競売より残債の額が小さくなる傾向もあるため、債務者にとっても有利な選択肢になります。
なお、任意売却による売却代金のみで住宅ローンを完済できるケースも珍しくありません。
任意売却の諸費用を売却代金から充当してもらえることがある
任意売却には各種費用が掛かります。
例えば、抵当権抹消費用や不動産仲介手数料、各種書類作成費用、物件を引き渡した後の引越し費用などです。弁護士に任意売却を依頼すれば、弁護士費用も必要になります。
これらの様々な費用について、債権者との交渉次第では、任意売却の売却代金から充当してもらうことが可能。
債務者の持ち出しなく任意売却が終わるケースも多々あります。
住宅ローンの滞納で家を売却したことが近所にバレない
競売で家を売却する場合、裁判所を通じて情報がネット上などで公開されます。
そのため、場合によっては近所の方々に「住宅ローンの滞納が理由で家を売却した」ということがバレる恐れもあるでしょう。
一方で、任意売却は通常の不動産売買と同じ手続きですので、家を売却する理由が近所にバレることはありません。
引き続き同じ家に住み続けられる可能性がある
不動産投資家やリースバック業者などに家を売却すれば、家賃を支払う形で引き続き同じ家に住み続けられる可能性があります(リースバックと言います)。
買い戻し特約を付けて賃貸契約をすれば、資金に余裕ができた段階で家を買い戻すことも可能です。
生活環境を変えたくない方やお子様を転校させたくない方などにとって、リースバックは注目すべき契約となるでしょう。