住宅ローンを抱えたまま離婚した場合、以後の住宅ローンは誰が払うことになるのでしょうか?離婚すれば、妻は夫の連帯保証人や連帯債務者から外れて、借金から解放されるのでしょうか?
ここでは、離婚後の住宅ローンの支払いについて、いくつかのパターンから解説しています。
離婚後の住宅ローンの支払い義務は誰にあるのか?
離婚後の住宅ローンの返済義務者は、住宅ローンの契約形態の違いにより異なります。以下、4つのパターンの契約形態に分けて見ていきましょう。
夫か妻が単独名義で住宅ローンを契約している場合
連帯保証人を設定せず保証会社の保証などを得て、夫または妻が単独名義で住宅ローンを契約している場合、離婚後も単独名義で契約した人が住宅ローンの返済を続けます。
仮に、離婚時に1000万円の住宅ローンが残っていたとしても、夫婦それぞれで500万円ずつ折半して負担する必要はありません。
夫と妻の共有名義(ぺアローン)の場合
夫婦でペアローンを組んで住宅を購入している場合、離婚後も、自分の名義で借りているほうの住宅ローンを返済することになります。
例えば、夫が3000万円、妻が2000万円の住宅ローンを契約し、合算して5000万円の家を購入していた場合、離婚後はそれぞれ自分の名義の住宅ローンのみを返済していくという形です。
ただし、離婚後にどちらか一方が家へ残ることになると、家を出たほうは自分の住んでいない家に借金を返し続けることになるため、納得できないでしょう。
この不公平を解消するため、家に残るほうが家を出るほうから持ち分を買い取り、実質的に家に残るほうの住宅ローンへと1本化する例も見られます。あるいは、夫婦どちらも家に残らず第三者へ売却し、早めに複雑な状態の解消を目指す例もあります。
なお、ペアローンは、夫婦それぞれの名義で契約した住宅ローンに対して、お互いに連帯保証人となっているのが一般的。そのため離婚後、もし別々で自分名義の住宅ローンのみ返済し続けていた場合でも、相手が住宅ローンを滞納してしまうと、連帯保証人として相手の住宅ローンの返済も求められることになる点を理解しておきましょう。
夫か妻のどちらかが一方が連帯保証人の場合
例えば夫の名義で契約して妻が連帯保証人となっている住宅ローンの場合、離婚後、もし夫が住宅ローンを返済できなくなれば、連帯保証人たる妻が代わって返済することになります。
離婚すれば連帯保証人から外れられると誤解している方もいるようですが、お金を貸した金融機関にとって、契約者のプライベートな出来事(離婚)を考慮して契約内容を変える理由などありません。離婚しても連帯保証人として立場が消滅するわけではないことは、十分に理解しておきましょう。
夫婦の連帯債務で住宅ローンを契約している場合
連帯債務とは、夫婦のどちらかが主債務者となり、もう一方が連帯債務者となる住宅ローンの契約形態。この場合、主債務者と連帯債務者は同じ返済義務を負うことになります。連帯保証と同様、離婚しても互いの義務が消滅することはありません。
なお金融機関は、主債務者と連帯債務者のどちらに対しても返済を求めることができます。そのため、例えば主債務者である夫に多少の返済能力があったとしても、連帯債務者である妻のほうにより高い返済能力があると判断されれば、夫ではなく妻に返済請求が行われる場合もあります。
家を残さず売却することも選択肢
以上でご紹介した通り、住宅ローンを抱えたまま離婚すると、様々な問題に発展することもあります。
これらの問題を解消し、お互いに清々しい気持ちで次のスタートを切れる有効な方法が、家を売却すること。長く住んでいた家を第三者へ売却するのは寂しいかもしれませんが、離婚後の住宅ローン返済に関連する諸問題を解消するためには、売却が1つの有効な選択肢になることも理解しておきましょう。
ただし、住宅ローンが残ったままの家の売却に際しては、現状が「アンダーローン」であるか「オーバーローン」であるかにより、対応の仕方が大きく異なります。それぞれのポイントを確認しておきましょう。
アンダーローンの場合
アンダーローンとは、家の売却金で住宅ローンの残りを全額返済できる状態のこと。売却金で住宅ローンを全額返済する旨を金融機関へ申し出れば、通常、金融機関は売却を了承します。
ただし、たとえアンダーローンの状態だったとしても、家には金融機関による抵当権が付帯していることが一般的。抵当権のある状態のまま不動産を売却することはできないので、売却する際には事前に金融機関へ申し出て売却の了承を得ておく必要があります。
アンダーローンで売却した場合の財産分与について
アンダーローンで家を売却して利益が出た場合には、財産分与のルールにより夫婦で折半することが一般的。例えば、住宅ローンの残りが2000万円であることに対して売却額が3000万円だった場合、利益となる1000万円は夫婦で500万円ずつ分けるのが原則となります。
オーバーローンの場合
オーバーローンとは、家の売却金だけでは住宅ローンの残りを返済できない状態のこと。アンダーローンとは大きく事情が異なるため、当然ながら契約者の一存で勝手に家を売ることはできません。
オーバーローンの場合には、次の3つのいずれかの方法で家を売却することとなります。
自己資金をプラスして住宅ローンを完済する
売却金を住宅ローンの返済に充て、不足分を自己資金でまかなって住宅ローンを完済します。
不足分を補填するための十分な自己資金があることを証明できれば、金融機関は売却に同意して抵当権を外してくれる可能性が高いでしょう。
金融機関と交渉して任意売却する
不足分を補填するための自己資金を有しておらず、かつ住宅ローンの滞納が始まってしまった場合には、任意売却という手段が現実的です。
任意売却とは、金融機関に抵当権を外してもらい一般市場から不動産を売却する方法。金融機関にとっては損失が生まれる可能性もあるものの、後述する競売に比べると一度に回収できる金額が多くなる可能性も高いため、やむを得ず任意売却に同意してくれる場合が少なくありません。
なお、任意売却後に残った残債は、住宅ローンの契約者が引き続き返済することになります。ただし、任意売却によって住宅ローンの多くを返済している形となるため、返済の負担は大きく軽減するでしょう。
競売で家を売る
住宅ローンの滞納が続き、任意売却もせずに事態を放置すると、やがて裁判所の命令により家が競売にかけられます。競売が成立すれば、契約者は家を退去しなければなりません。
競売による売却金は住宅ローンの返済に回されるものの、その金額は任意売却より低くなる傾向があるため、売却後に残る残債の負担は任意売却より大きくなる可能性があります。
もし住宅ローンの返済が困難になった場合には、早めに金融機関や不動産会社などに赴いて任意売却の相談をするようおすすめします。
【まとめ】離婚後の住宅ローン返済義務と解決策: 契約形態と売却選択肢を理解する
本記事について、以下にまとめました。
– 離婚後の住宅ローン返済義務は契約形態により異なり、単独名義、共有名義(ぺアローン)、連帯保証人、連帯債務の4つのパターンが存在します。
– 単独名義の場合、離婚後も名義人が住宅ローンを返済し続けます。残債は折半せず、名義人が全額負担します。
– ペアローンの場合、離婚後も各自が自身の名義の住宅ローンを返済します。ただし、連帯保証人として相手が滞納すれば返済義務が発生します。
– 連帯保証人の場合、主債務者が返済できなくなると連帯保証人が返済義務を負うことになります。離婚後も連帯保証人の立場は消滅しません。
– 住宅ローンを抱えたまま離婚すると多くの問題が生じるため、家を売却することも有効な解決策となり得ます。ただし、アンダーローンかオーバーローンかにより対応が異なるため、それぞれの状況を理解しておくことが重要です。