住宅ローンの滞納が続き、ある日「期限の利益を損失しました」という通知が届く。すると、自宅が競売にかけられてしまうことになります。
そんな場合に鍵となるのが「抵当権」。一体どのような権利で、誰が・いつ・どんな場合に実行できるのでしょうか?
抵当権とは
抵当権とは、貸金などの債権を担保するために債務者の土地や建物に設定される権利のこと。
債務者が債務を返済しない場合には、抵当権者(抵当権を持つ債権者/住宅ローンを貸している機関)は抵当権設定者(債務者/住宅ローンを借りている人)の土地・建物を競売にかけ、その売却代金から債権の回収を図ることができます。
抵当権には「抵当権設定後も債務者は従来通りに目的物を使用することができ、それによって債務の弁済資金を得ることができる」という利点があります。
担保としての機能が優れているため「担保の女王」などと呼ばれる抵当権は、実際の取引において最もよく利用される担保といえるでしょう。
抵当権には大きく分けて「通常の抵当権」と「根柢当権」の2種類がありますが、一般に抵当権という場合には通常の抵当権のことを指します。
根抵当権とは、企業が融資を受ける際に所有する不動産に設定することが多く、不動産の担保価値を算出して貸し出せる上限(極度額)を決め、その範囲内で複数回金銭を貸し借りすることができる権利です。
住宅ローンを滞納すると行われる「抵当権の実行」とは?
債務者が期限の利益(住宅ローンを分割で支払う権利)を喪失した際、抵当権を持つ者(この場合は住宅ローンを貸している金融機関など)が裁判所に抵当権に基づく不動産競売を申し立てることを「抵当権の実行」といいます。
債務者が約定の弁済期に弁済をしない場合、抵当権者は抵当権を実行して債権を回収することができるということです。
無担保の債権者が債権を回収しようとする場合は強制競売(債務者の財産を差し押さえて競売にかけること)に頼らざるを得ませんが、担保権の実行と違い登記事項の証明書というものがありませんから、債務名義(債権があることを公的に証明して強制執行を行うことができる書面)が必要となります。
抵当権は競売申立書と優先弁済権を内在していますので、債権者は抵当権の登記がされていることを証明する「目的物に関する登記事項証明書」を添付すれば競売を申し立てることができるのです。
民法394条では「抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる」と規定されていますが、これは抵当権者がまず抵当不動産以外の債務者の財産から弁済を受けようとする場合にほかの債務者がこれに異議を述べる権利を与えたもので、債務者との関係において抵当権者が制約を受けるものでは無いと解釈されています。
抵当権の実行は裁判所の混み具合や物件の状況によって違いますが、競売開始から落札まではおよそ5ヶ月~6ヶ月。競売は一般的に市場価格の7割程度で売却されるので、その分多くの残債が残ってしまいます。
※参照:民法394条「抵当不動産以外の財産からの弁済」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
抵当権の実行の前にできること
債権者が抵当権を実行する前に、抹消をする方法があります。
1つ目は、借りた側が住宅ローン返済を順調に済ませ、完済して抹消する方法。この場合、当然ですが残債務はゼロになりますから、債権者は抵当権を実行する必要が無くなります。
ただし、完済しただけでは登記上の抵当権は抹消されませんから、完済後はきちんと手続きを進めましょう。
2つ目は、ローン返済が難しくなった人が任意売却を行うために金融機関に抵当権を抹消して貰うという方法です。
抵当権は人ではなく物に設定されます。従って住宅ローンの残債がある不動産を売却する際に抵当権を抹消しなかった場合は、売却後も抵当権が設定されたままの状態となります。
抵当権が設定されたまま不動産を売買することは可能ですが、買う側にとって抵当権が設定されたままの不動産を購入することはメリットが無く、リスクだけを負うことになります。
抵当権が設定された不動産を売却するためには、売り出す前に残債を一括返済して、抵当権を抹消した上で売り出さなければ売買成立は難しいのです。
しかしそれでは、残債をあらかじめ一括返済できる人しか住宅ローン途中の物件を売却できない、ということになってしまいます。住宅ローンの返済が難しくなっている人は、当然ですが一括で返済するのはほぼ不可能。そこで、不動産会社が抵当権者と交渉し、売買成立時に抵当権抹消手続きをしてもらえる承諾を得て、その物件を売り出すのが「任意売却」です。
任意売却を専門としている不動産会社は、その物件の売却額が残債額を下回って却額すべてを返済に充当しても債務が残るといった場合であっても、抵当権抹消手続きをしてもらうように交渉します。債権者(低当権者)にとって最終的に競売で回収できる金額より任意売却で得られる回収額が多い場合はメリットがあるため、このような交渉が可能なのです。
売買成立後、売却で得た金額から売却の際にかかった諸経費を差し引いた金額を残債に充当して、抵当権の抹消手続きが行われます。
抵当権に対する債権者が複数いる場合には、借りた金額の高い「第一抵当権者」から順に返済することになります。もし全額がすべての債権者に行き渡らない時は、不動産会社が間に合って債権者間の調整で返済の割合を決定します。
抵当権の実行によって家が競売の危機にさらされていても、手段はあります。まずは経験豊富な専門家である「任意売却無料相談窓口」にご相談ください。